カメラで撮影した現象を数式にするフォトロンのカメラは実験研究に無くてはならないもの。
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九州大学大学院 工学研究院 航空宇宙工学部門 様
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九州大学大学院 工学研究院 航空宇宙工学部門
井上 智博 准教授にインタビューした「カメラで撮影した現象を数式にする
フォトロンのカメラは実験研究に無くてはならないもの。」の記事をご紹介します。
アルテミス計画で日本が担う宇宙機の研究開発に貢献。ロケットエンジンの内部流動をカメラで撮影。
アルテミス計画とは米航空宇宙局(NASA)が先導し、日本やEUも参加しながら、月面探査や月面基地建設などをめざす国際的な大型プロジェクトです。有人火星探査など将来の宇宙開発の架け橋として注目されています。この計画で日本が担当するミッションの一つは、月を周る軌道に物資を届けることにあります。そのロケットエンジンの設計にわれわれの研究成果が貢献しています。具体的には、ロケットエンジンの内部現象をカメラで撮影することで、「エンジンの性能がどうやって決まっているのか?」「壁の冷却技術がどれぐらいの能力を持つのか?」といった性能と熱特性の両方を予測可能な新しい物理モデルを構築しました。
このように本研究室では、航空機やロケットエンジンなどの推進工学分野を中心に研究を行っています。高速で複雑な熱流体現象をカメラで撮影して、その本質をエレガントに記述する数式を導くことで、現象を普遍的に理解することが可能になります。その他、線香花火などの身の回りの美しい現象にも興味を持って研究し、長年の謎を解き明かしてきました。
赤外線ハイスピードカメラを使ったCO2の可視化
CO2排出量が多い大型の航空機は、完全な電動化が難しく、今後も炭化水素燃料を燃焼させてジェットエンジンを駆動することが予想されています。燃料をSAF(Sustainable Aviation Fuel)へと次第に切り替えるなど、航空業界ではCO2を一刻も早く減らす努力が続けられています。
CO2の可視化を切望していたところ、1年ほど前に、フォトロンからFLIR社の赤外線ハイスピードカメラ※1を紹介されました。観察する波長を選択することで、肉眼では透明で見えない気体であるCO2を選択的に可視化できます。CO2の排出源を直接観察できる点が今までにない革新的な新技術になります。
このカメラによって、CO2の排出状況をリアルタイムに見ることができ、流体シミュレーションと組み合わせることで、排出源から出たCO2がどのように拡散していくかがわかるようになります。これを発展させたら天気予報のように、CO2予報が実現できますね。「本日はこのエリアはがCO2が多いのでお出掛けにはご注意ください……(笑)」将来的には、大気中のCO2を効率的に回収する方針を立てたり、CO2を集めやすい建物を設計するなど、新しい「脱炭素」アプローチとして役立つと期待して研究を行っています。
※1:FLIR社の赤外線ハイスピードカメラはフォトロンが代理店をしています。
エンジンからCO2が出てどこを流れているかが一目でわかる。世界初のCO2排出源の可視化
この映像は福岡国際空港株式会社様と全日本空輸株式会社様のご協力のもと、福岡空港で2日間かけて、飛行機が排出するCO2を赤外線ハイスピードカメラで撮影したものです。「エンジンがCO2を排出すること」そして「エンジンから出たCO2がどこを流れるか」が一目瞭然です。世界で初めて、運航中の飛行機から排出されるCO2を直接撮影することに成功しました。
ハイスピードカメラが線香花火の不思議を解明
江戸時代に始まった線香花火は令和の時代になっても、夏の風物詩として親しまれています。ふと、フォトロンのカメラを使って線香花火を見てみようと思いました。撮影した映像を見て、びっくりしたことを鮮明に覚えています。
こちらの動画は1秒間に10万コマで撮影しました。ピント合わせが難しく、会心の動画を撮るのに徹夜の作業になりました。そこで見たのは、火の現象でなく、まさに水の現象でした。例えば、高温の液滴が繰り返し分裂することで、火花が枝分かれすることが分かりました。これまでの常識では、1個1個の液滴は1回しか分裂しません。1回分裂した液滴はそのまま飛んでいくだけです。それなのに線香花火では、飛び出した液滴が10回も続けざまに分裂していて、驚きました! 「液滴の連鎖分裂」という新現象が世界で初めて発見された瞬間です。
放射率フリーの温度計測を実施したところ、線香花火の色は、燃える色ではなく、溶ける色であることが明らかになりました。誰もが知る現象でありながら、実は誰も知らない現象が身の回りにたくさんあることを学ぶことができました。
フォトロンのカメラを使うことで、江戸時代以来の謎であった線香花火の儚い美しさの原理が解き明かされました。そして、線香花火を描く美しい数式を導くことにも成功しました。それなのに線香花火では、飛び出した液滴が10回も続けざまに分裂していて、驚きました! 「液滴の連鎖分裂」という新現象が世界で初めて発見された瞬間です。
液体金属も面白い
最近、金属3Dプリンタのニーズが急速に高まっています。金属の粉を敷き詰めて、溶かして固めることで、今まで作れなかった複雑な形状を実現できるのが特徴です。どこにもネジを必要としない完成品を、そのまま立体的に造形できます。
その際、金属の粉のクオリティが重要です。もの凄く速い水滴群や気流を、液体金属の塊に衝突させると、小さな液体金属に砕けて、それが冷えて粉になります。この粉ができるプロセスを明らかにすることで、高品質の「粉」をどう作れば良いか分かるため、大きなメリットがあります。
研究室の実験では、融点が240度のスズを使って、金属の粉づくりプロセスを明らかにしています。例えば、気体の密度勾配が見えるシュリーレン光学系に、フォトロンのカメラと、閃光時間10ナノ秒の高繰り返しパルス光源を同期させて組み込むことで、超音速気流の衝撃波構造を鮮明に観察できます。そして、衝撃波構造と液体金属を上手く衝突させることで、球形の微小粉末を製造できることが分かってきました。
出来た金属粉を分析していた従来の静的なアプローチを脱却して、金属粉ができるまでの動的なプロセスを明らかにできる有効なツールとして、フォトロンのカメラは欠かせません。
フォトロンのカメラとの出会い
10年ほど前に、高速現象を撮影したいと思い、フォトロンに問い合わせました。営業担当者がどうすればよい絵が撮れるか、熱心に検討して下さいました。世界で初めてデジタルハイスピードカメラを開発した会社であることを知り、映像にとことんこだわる姿勢を目の当たりにしました。国内メーカーであることも魅力的です。実は今年、うっかりカメラのセンサーを汚して、やってしまったと思った時にも迅速に対処してもらい、安心しました。特に今は円安で、海外製は高価格な上にメンテナンスの即応性でも不安があります。
フォトロンは、どの営業担当、そして技術担当の方も、提案力があり助かっています。心打つ映像を生み出すには、カメラや光学系のスペックに加えて、撮影者の情熱と経験がものを言います。フォトロンと初めて出会って以来、最高のスタッフ・カメラ・サポート・提案のおかげで、美しい映像を撮影できています。感謝!
2つの動画をくっつけて視ることもできる!
ハイスピードカメラがなかった頃は、高速の現象をじっくり観察することは困難でした。ハイスピードカメラがあれば、現象をスロー映像で確認できるので、格段に理解が進みます。また、美しい映像は人を惹きつける有効なツールです。
九州大学に赴任したタイミングで、フォトロンのカメラを新たに導入しました。前機種と比べると、格段に軽量化され感度も高くなっており、非常に満足しています。他のメーカーのハイスピードカメラでは難しい実験もあります。
ソフトウェアも、映像をどう見せると効果的か、よく考えて開発されています。2つ以上の動画を1つの動画に統合して再生できて、これが地味ですがとても便利です。論文やプレゼン資料を作成する際に重宝しています。制御ソフトにも画像解析の機能が搭載されていて、映像へのこだわりを具現化してくれます。フォトロンのカメラシステムは、期待以上の映像を実現してくれます。
INFINICAM※2なら炭酸の泡をリアルタイムに追跡できる
フォトロンから新しく出たINFINICAMは、高速かつリアルタイム性が必要な場面で、唯一無二のツールになります。今までのハイスピードカメラは、いったん全ての画像データをカメラに保存するので、現象をパソコンの画面で確認するときには、その現象はとっくに終わっています。しかし、画像データを逐次パソコンに転送するINFINICAMなら、現象が起こっているそばから画像解析して、リアルタイムに定量化できます。画像処理プログラムもユーザーが開発でき、自由度が高いことが魅力です。
例えば、炭酸水ペットボトルを開栓した瞬間や、スプレーを噴いたその瞬間から、1kHz以上の撮影速度で全ての気泡や液滴を追跡しながら、速度と直径をリアルタイムに計測することに成功しました。わずか数秒で統計量まで取得できるのは画期的です。他にも、ロボット研究者と協力して、画像をリアルタイム解析することで、フィードバック制御を実現するなど、新しい研究にも挑戦しています。フォトロンの開発力のおかげで、研究のフィールドが拡がっています。
※2:120万画素の画像データを1000コマ/秒のリアルタイムで高速画像処理ができるハイスピードカメラ
フォトロンのカメラを使って、高速現象を鮮明に観察できるようになりました。私の研究室で行う実験はシンプルで、幸いフォトロンのカメラと相性が良いです。このまま良いカメラを作り続けてほしいです。これからも世界に誇るフォトロンの開発力に期待しています。
井上先生のご紹介
九州大学大学院 工学研究院 航空宇宙工学部門
井上 智博准教授
東京大学で博士(工学)の学位を取得後、九州大学の現職。身の回りから航空宇宙にわたる美しい熱流体現象を対象に、研究を行っています。最近は、航空機から排出されるCO2の直接イメージングにも成功しています。
※ この記事は2023年11月取材時の情報です
製品紹介
120×120×94mm、質量1.5kgという軽量コンパクト筐体でありながら、1024×1024ピクセルで6,400コマ/秒、640×480ピクセルで20,000コマ/秒、最高900,000コマ/秒(※AX200)という撮影速度を実現したハイスピードカメラです。モノクロISO 50,000の超高感度性能を持っており、溶接の可視化に最適です。また、波形測定オプションで電圧、電流といった計測波形データを同期させて取得、表示させることも可能です。
世界最高クラスの高速・高感度の性能を誇る赤外線ハイスピードカメラをもとにした“研究開発向け”の赤外計測システムをご紹介します。
リアルタイム圧縮・ストリーミングハイスピードカメラ(高速度カメラ)INFINICAMは、USB3.1で120万画素の画像データを1,000コマ/秒でPCメモリに転送できるストリーミングハイスピードカメラ(高速度カメラ)です。
PCメモリに転送された画像データを画像処理することで、簡単に高速画像処理システムが構築できます。最新SDKではC++に加えてコンピュータービジョン/マシンビジョン分野で一般的なPythonに対応しました。より簡単で直感的なプログラミングでINFINICAMを使用したリアルタイム画像処理が可能になります。
撮影事例
【画像提供】九州大学大学院工学研究院 井上 智博様
航空機排出CO2の直接イメージング
液滴の連鎖的な分裂現象の発見と解明 -線香花火の科学-
気泡や液滴のリアルタイム追跡と統計量解析
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