ハイスピードカメラの選び方
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ハイスピードカメラは、一瞬の高速現象をスローモーションの動画で撮影できる特殊なカメラです。
一口にハイスピードカメラといっても多種多様な機種があります。目的や用途に合ったものを選ばないと、思っていたような映像が撮影できなかったり、必要なデータが計測・解析できなかったりします。一方で、ハイスピードカメラは一般的なカメラとは異なる部分も多く、専門的な知識を持っていない方にとって、適切な機種を選ぶのは難しいです。
そこで多くのハイスピードカメラを開発・販売してきたフォトロンが、ハイスピードカメラの基礎知識と選び方をわかりやすく解説します。
ハイスピードカメラができること
そもそも、なぜハイスピードカメラはスローモーションの動画を撮影できるのでしょうか。
静止画を高速で連続して撮影し、それを1つにつなげることで動いているように見せるのが「動画」の基本的な仕組みです。パラパラ漫画と同じように、動画の中に含まれる静止画のコマ数が少ないほどカクカクとした動きになり、多いほど滑らかな動きに見えます。
一般的なビデオカメラが1秒に30コマを撮影するのに対して、ハイスピードカメラは1秒に数千~数万コマを撮影します。それによって肉眼では見逃してしまうような素早い動きも、スローモーションの動画として捉えることができるのです。
だからこそ、高速で動作する機械の細かな不具合を発見したり、爆発や燃焼など自然現象のメカニズムを解析したりと、様々な用途でハイスピードカメラは活用されています。
業務用・研究用と個人用の違い
市販されている一般的なビデオカメラでも、機種によってはスローモーション動画を撮影することが可能です。しかし、そのような個人用のカメラと業務用・研究用のハイスピードカメラには大きな違いがあります。
1つは、撮影速度です。個人用のカメラの多くは、スローモーション撮影機能でも1秒に数百コマ程度が限度になっています。撮影速度が速い(コマ数が多い)ほど、より高速で一瞬の現象を捉えられますから、業務や研究には1秒に数千~数万コマ撮影できる専用のハイスピードカメラが使われます。
もう1つは、解像度です。スローモーション動画は大量の静止画をつないで作られるため、そのままだと膨大な容量のデータになります。多くの個人用のカメラでは容量を小さくするためにデータが圧縮されていますが、それによって動画の解像度が落ちてしまうのです。業務や研究には、より鮮明な動画が求められるため、圧縮されていないデータを扱える専用のハイスピードカメラが使われています。
また個人ではカメラ1つでスローモーション動画を撮影しますが、業務や研究では様々な周辺機器や解析ソフトウェアを組み合わせた「スローモーション解析システム」として導入されることが多いです。
ハイスピードカメラを選ぶときのポイント
目的や用途に合ったハイスピードカメラを選ばないと、上手く撮影できない場合があります。
- 撮影速度が足りなくて被写体の動きを捉えられなかった
- 感度が足りなくて暗く見えにくい映りになってしまった
- 解像度が足りなくて詳細な部分を確認できなかった
- 被写体の動きと撮影のタイミングを上手く合わせられなかった
- データ転送に時間を取られて作業が進まなかった
このような失敗を避けるため、ハイスピードカメラを選ぶときに注意したいポイントを紹介します。
撮影速度
ハイスピードカメラの撮影速度は、1秒に何コマ撮影できるか(時間分解能)で表されます。単位としては「コマ/秒」もしくは「fps(frames per second)」で表記されることが多いです。先ほども説明したように、撮影速度が高いほど、より高速な現象をスローに捉えられるため、非常に重要なポイントになります。
最適な撮影速度の目安は?
被写体(撮影対象)によって最適な撮影速度は異なります。以下は代表的な被写体と撮影速度の目安です。
撮影速度の考え方としては、被写体の「移動」と「回転」に大きく分けて考えられます。
移動を撮影する場合は、被写体が画面の端から端へ移動する時間の30~100倍の撮影速度があれば十分に可視化できることが多いです。例えば、10m/sで移動する被写体を1mの範囲でスロー撮影する場合あれば、1,000コマ/秒がひとつの目安となります。
【例.10m/sで移動する被写体が、1mの範囲を通過する様子を撮影したい】
1.)単位を㎜ に直し、見たい範囲を通過する時間を計算する
1,000㎜ ÷ 10,000㎜/s=0.1秒で通過
2.)何枚の画像が欲しいかを考える
100枚(100frame)撮影したい場合 → 0.1秒÷100枚=0.001秒/枚 → 1,000fps が必要
一般的な動画は30fpsのため、100枚の画像があれば約3秒分のスロー動画になります。通過時間を、何枚の画像が欲しいか(何秒分のスロー動画が欲しいか)で割ると、撮影速度が分かります。
回転を撮影する場合は、1分あたりの回転数(rpm)と同じ撮影速度に設定することが多いです。そうすると回転角6度ごとに1コマ、1回転を60コマで撮影できます。もう少し細かく、例えば回転角1度ごとに1コマ撮影したいなら、撮影速度を6倍に早めればいいのです。
シャッター速度
1コマの画像を撮影するために電子シャッターを開き、イメージセンサに光を取り込む(露光)時間のことを表します。単位は基本的に「秒(sec)」です。
シャッター速度を上げると露光時間は短くなり、被写体のブレが抑えられたシャープな画像を撮影できます。ただし露光時間が短くなるほど撮影画像は暗くなっていくため、シャッター速度を早めて撮影する際には、高輝度の照明が必要になります。
撮影速度と混同しがちな項目ですが、撮影速度は1秒間を何分割するかでスロー具合を決めていますが、シャッター速度は1枚1枚の露光時間の設定となります。そのため、1,000fpsであれば1/1,000枚目、2/1,000枚目・・・とそれぞれの画像に設定したシャッター速度が反映されます。
感度
イメージセンサが「光をどれだけ電気信号に変換できるか」を表します。感度が高いほど、より弱い光でも明るい画像を撮影できます。つまり高感度のハイスピードカメラであれば、撮影速度・シャッター速度を高く設定しても、条件によっては照明なしで撮影ができます。
また、拡大撮影を行う際はレンズの影響で暗くなりがちです。明るさを求めてレンズの絞りを開けると、被写界深度(奥行き方向のピント)が浅くなってしまい、ピントを合わせるのが難しくなります。カメラの感度が高ければ、絞りを効かせて被写界深度が深くピントの合った映像を撮影しやすくなります。
感度は「ISO 1000」などの数値で表記されますが、各メーカーでISO感度の測定方法が異なるため、比較には注意が必要です。同じメーカーであれば数値で比較してもよいですが、異なるメーカーの場合は実機を用いて同条件で撮影比較するのが望ましいでしょう。
イメージセンサ
カメラの中にある、光を集めて電気信号に変換する部品のことです。ハイスピードカメラのイメージセンサには「モノクロ」と「カラー」の2種類があります。モノクロのほうが高感度のため、シャッター速度を早めたい場合や暗い撮影環境ではモノクロ、色も含めて解析する場合はカラーが使われることが多いです。
解像度
カメラの画像は無数の点が集まることで描写されています。その1コマの画像を構成する点(画素)の数を表しているのが解像度です。ハイスピードカメラでは、横 × 縦 pixelで表記されます。解像度が高いほど、広範囲を撮影できたり、より細かな部分を可視化することができます。
フルフレームとセグメントフレーム
ハイスピードカメラには、イメージセンサの使用範囲を狭める(解像度を落とす)ことで、撮影速度を高める機能が備わっている場合が多いです。使用範囲を限定しない最大解像度での撮影速度を「フルフレーム撮影速度」、使用範囲を限定したときの撮影速度を「セグメントフレーム撮影速度」と言います。
メモリ容量
ハイスピードカメラで撮影されたデータは、基本的にはカメラ本体に搭載されたメモリに記録されます。メモリの容量が大きいほど長時間の撮影が可能です。
例えば、1,000コマ/秒の撮影速度、1024×1024の解像度、モノクロ12bit階調で撮影すると、1秒の撮影で約1.5GBのデータ容量が必要です。その場合、8GBのメモリ容量なら約5秒、128GBのメモリ容量なら約87秒の撮影ができます。
このように想定される撮影速度・解像度・撮影時間を踏まえて、必要となるメモリ容量を考えるとよいでしょう。もし撮影時間を延ばしたい場合は撮影速度を低くする、もしくは解像度を下げると、撮影時間にメモリ容量が充てられるため、撮影時間が延びます。
トリガ
ハイスピードカメラは、大量の画像を撮影することで膨大なメモリ容量を消費するため、基本的には数秒しか撮影できません。「一瞬の現象」と「数秒の撮影時間」を上手く合わせる必要があります。そのタイミングをカメラに伝えるのがトリガです。
例えば被写体の動きを検知して自動で撮影を開始したり、外部機器の信号によって撮影を開始・停止したりと様々なトリガがあります。エンドレス撮影状態(メモリがいっぱいになったら古いデータを上書きして連続で撮影を続ける状態)のカメラでは、トリガ入力に合わせて撮影データの記録タイミングを制御することもできます。
データ転送
ハイスピードカメラ本体に記録された撮影データは、基本的にカメラの電源を落とすと消えてしまいます。保存しておきたい撮影データは、PCなどの外部機器に転送しなければなりません。ハイスピードカメラの撮影データは容量が大きく時間がかかるため、データ転送の速度も解析の効率を考えると非常に重要です。転送方式によって早さが変わる場合もあるため、注意してみましょう。
サイズ・重量(設置しやすさ)
ハイスピードカメラの性能も重要ですが、サイズや重量も忘れてはなりません。撮影環境によっては、小型のハイスピードカメラでなければ設置できない可能性もあります。頻繁に設置場所を変えたり、持ち運びが必要になる場合は手軽に持てる重さであることも大事です。一般的には性能が高いほど大きく重くなる傾向にあるため、バランスを見て選びましょう。
ハイスピードカメラの周辺機器の選び方
ハイスピードカメラは本体だけで使われるよりも、様々な周辺機器と組み合わせてひとつのシステムとして導入されることが多いです。ここでは周辺機器の一例を紹介します。
レンズ
一眼レフなどと同じように、ハイスピードカメラも目的に合わせてレンズを付け替えられることが多いです。レンズによって、F値(明るさ)、焦点距離、最短撮影距離、ズーム倍率などが変わります。ハイスピードカメラ本体とレンズを接続するマウントの規格が合っていないと使えないため注意しましょう。
照明
ハイスピードカメラは撮影速度・シャッター速度を上げるほど画像が暗くなるため、高輝度の照明が必要です。照明には様々な種類があり、光量、照射範囲、波長、発熱(被写体への影響)、消費電力、コストなどを総合的に判断して選びます。
設置器具
ハイスピードカメラや照明を設置するための器具としては三脚か、狭いスペースだとアームが使われます。カメラ本体も照明もそれなりの重量があるため、まずは耐荷重が問題ないかを確認し、そのうえで取り回しのいいものを選ぶとよいでしょう。
データロガー
データロガーは様々な信号を収集・処理して記録する装置です。各種センサや試験機の信号をデータロガーを通してハイスピードカメラに入出力することで、複雑な設定をしなくても被写体の動きと撮影タイミングを同期させることができます。
解析ソフトウェア
多くの場合、ハイスピードカメラから有用な情報を得るには撮影したデータを解析しなければなりません。そのためには専用のソフトウェアが必要です。2D座標、3D座標、温度、歪みなどソフトによって得意とする解析機能が異なるため、解析の目的や被写体に合ったものを選びましょう。またハイスピードカメラや周辺機器を制御するためのソフトも存在します。
購入前にデモ撮影をするのがおすすめ
ここまでハイスピードカメラを選ぶときのポイントを解説してきましたが、仕様を見ただけで最適なものを選ぶのは難しいです。高額な製品も多いですから、いざ購入してから活用できないとなれば大きな損失になってしまいます。そのため事前にデモ撮影をするか、レンタルするなどして、目的に合った使い方ができるのか確かめておくとよいでしょう。
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